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福岡高等裁判所 昭和36年(ラ)141号 決定 1961年10月04日

抗告人 高木光士

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は原審判を取消す、福岡市長が昭和三十五年七月二十七日付戸受付第一、三六二号を以てなした松本広司と宮本信子の婚姻届の受理を取消すとの裁判を求め、抗告人がその理由として申立たところは次のとおりである。

福岡市長が昭和三十五年七月二十七日戸受付第一、三六二号を以て松本広司と宮本信子の婚姻届を受理したが、これは本来受理すべからざる違法の受理である。すなわち抗告人と宮本信子は昭和三十年十月三日東京都大田区役所田園調布出張所に婚姻届をなしたところその後当事者間に右婚姻の効力の有無について紛争を生じ、目下最高裁判所に同裁判所昭和三十五年(オ)第一二、六六四号婚姻無効確認請求、身分関係存在確認請求等上告事件として繋属中であるが、抗告人不知の間に昭和三十五年六月二十三日抗告人の戸籍に右婚姻が無効である旨記載され、前記婚姻の記載が消除されている、ところで抗告人はこれより先昭和三十二年八月二十九日福岡市役所高宮出張所の戸籍係に抗告人が信子との婚姻について離婚の意思も、婚姻取消の意思もないことを通知し、同年九月以降屡々信子についての事実調査方を依頼し、同係員は住民登録簿上信子は高木信子として登載されていること、また、抗告人が送付した抗告人の戸籍謄本の写を見ているので抗告人と信子との婚姻の記載がなされていることが充分判つている筈であり、更に抗告人と信子の間で婚姻の効力について紛争のあることを知つていたのであるから松本広司と宮本信子との婚姻届書の「直前の婚姻の解消年月日」欄に「初婚」と記載されているのは「婚姻の効力の有無につき訴訟中」と訂正させ、また解消年月日を明記させるべきであるのにこれらの訂正及び解消年月日の記入をさせないで右婚姻届を受理したことは違法である、また右婚姻届は民法七三二条の重婚の届出であり民法七三三条の再婚禁止期間内の届出であるのでこれを受理したことは違法であるというにある。

本件記録中の高木光士の戸籍謄本、松本広司の戸籍謄本の写、福岡市役所高宮出張所の回答書、判決未確定証明書及び当裁判所の取寄に係る松本広司と宮本信子の婚姻届によれば、抗告人及び宮本信子の各戸籍に抗告人が昭和三十年十月四日宮本信子と婚姻した旨それぞれ記載されたが、その記載事項は同人等の婚姻が無効であるとして昭和三十五年六月十六日許可により同月二十三日消除する旨戸籍に記載されたこと、これより先昭和三十一年中から抗告人と信子の間で婚姻無効確認請求等の訴訟が起り同訴訟は目下最高裁判所に上告事件として繋属中であること、信子と松本広司の昭和三十五年七月二十七日付婚姻届が同日付で福岡市長によつて受理され、その旨戸籍に記載されていること、その婚姻届の信子の婚姻関係欄に「初婚」と記載されていることがそれぞれ認められる、ところで戸籍吏は婚姻届が提出せられた場合その婚姻の事実の有無、或は既に戸籍に登載された記載事項が客観的に真実なりや否や等の実質的審査権を有しないのであるから本件において松本広司と宮本信子の婚姻届が提出された際戸籍吏が仮に信子と抗告人は以前婚姻し、現にその婚姻の効力につき訴訟中であることを知つていたとしても前記の如く、抗告人と信子の戸籍に同人等の婚姻が無効であるとして消除されている以上戸籍吏はその消除が適法になされたものなりや否や、また前記「初婚」の記載が真実に合致するものなりや、従つて婚姻の解消年月日欄に何等の記入もないことが真実なりや否やを調査する権利もなければ義務もない、また抗告人と信子の戸籍に同人等の婚姻が無効であるとして消除されている以上右松本広司と信子の婚姻届は重婚の届出でもなければ、婚姻禁止期間内の届出でもない、而して松本広司と信子との婚姻届によれば同人等の婚姻について形式的要件に欠くるところがないので、福岡市長が昭和三十五年七月二十七日付戸受付第一、三六二号を以て右婚姻届を受領したことは適法であり、その他記録を精査しても原審判を違法ならしめる瑕疵を認めることができないので本件抗告は理由がないものとしてこれを棄却する。

よつて家事審判規則第一八条、非訟事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条第三八四条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 中園原一 裁判官 厚地政信 裁判官 原田一隆)

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